労務コラム

退職後、同業他社へ転職した社員に対しては退職金を支払わないことができるか   2015.09.24

退職後、同業他社へ転職した社員に対して、会社側の心情としては退職金の減額や不支給をしたいと考えても仕方のない部分はあります。ただし、退職金を減額または不支給とすることは簡単ではありません。

 

原則:

退職金の支払い基準は会社が自由に定めることができますが、通常退職金は「勤続年数」等を基準として計算されますので、その意味で「在籍中の賃金を後払いする」という性格があると考えられます。そのため、「○○の場合には退職金の減額・不支給とする」と定めたとしても、その程度は合理的範囲に制限されます。

 

同業他社への転職の制限:

では、同業他社へ転職する者への支給制限をすることは合理的でしょうか。

退職後、同業他社に転職した者に対する退職金の減額・不支給条項を設けることも、違法ではありません。しかし、裁判例から考えれば、禁止する競業の範囲(場所・期間等)を合理的な範囲にとどめたうえで、その代償措置を設けるか、あるいは強度に背信的な場合に全額不支給とするというのが現実的な措置でしょう。一般的には退職金の減額にとどめておくのが妥当です。

 

つまり、「○年以内は競業他社へ就職をした場合、退職金を○%減額する」「競業とは商圏(会社から半径○㎞範囲等)とする」「競業への就職を制限する社員は、○○の役職以上の職に就くものとする」などの決まりをきちんと就業規則などに定めておいた上で、競業への就職を制限する代わりに在職中に○○手当を支給するなどの状況を整えておかなければ、退職金の減額は難しくなるでしょう。

 

実際に競合会社へ転職する社員は正直にそのことを会社に言わないでしょうから、その確認も簡単ではありません。在職中から退職金規程などをしっかりと周知し、背任的な転職をしないように抑止するしかないというのが実情です。

時間単位の有休休暇制度   2015.09.24

年次有給休暇(以下、「年休」)は「日」を単位に与えるの が原則です。昔は「1労働日」未満に分割して与えることは不可とされていましたが、昭和63年の厚労省通達で「年休は請求に応じて半日単位で与えてもよい。」 とされました。

 

更に、平成22年5月施行の改正労働基準法では「時間単位年休」が可能になりました。 ただし、このような 1 日未満に分割した年休制度を整えることは会社の義務ではありません。会社は「通院したいので2時間だけ有給休暇を取りたい」と申し出があった場合でも断ることもできます。とはいうものの、時間単位で有給休暇を取りたいという社員の希望が実際にはあるでしょう。

 

時間単位年休を導入する上で留意すべき点は、①労使協定の締結が必要(届出は不要)、②時間単位年休は「年間 5 日を上限とする」、 という 2点です。(前述の「半日」年休には法律上、労使協定締結の必要性や取得回数の上限等はありません)

 

1、労使協定について:

労使協定で定めるべきことは以下の通りです。

1.対象労働者の範囲

2.時間単位で与えることができる年休の日数(年間5 日 以内に限る)

3.年休1 日に相当する時間数

4.取得単位となる時間(1 時間単位以外の場合)

 

「対象労働者の範囲」では例えば、事務系社員だけを対象とし、工場ラインの労働者を除く場合はその旨を協定します。

「年休 1 日に相当する時間については、その労働者の「1 日の所定労働時間を下回ることは許されません」から、例えば1 日の労働時間が 7.5 時間の会社の場合には、端数は切り上げて「8 時間」 とするのがよいでしょう。取得の単位を1 時間以外にする場合(例えば「2 時間」等)には、その時間単位を協定します。

 

 「時間単位年休」の普及率はまだ高いとはいえません が、社員にとっては利用するメリットが大きい制度と考えられるので皆様の会社でも導入を検討してみるとよいでしょう。

最低賃金制度について   2015.08.31

 最低賃金制度とは、国が賃金の最低限度を決め、会社はその最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。つまり、会社が労働者に支払わなければならない、賃金額の最低限値を定めているのです。

 

最低賃金には、各都道府県に1つずつ定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業に従事する労働者を対象に定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。

 

・地域別最低賃金→産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその会社に対して適用される最低賃金です。

 

・特定(産業別)最低賃金→「地域別最低賃金」よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認める産業について設定されています。

 

○最低賃金額より低い賃金で契約した場合

最低賃金額より低い賃金を労働者と会社の合意の上で定めても、それは法律によって無効とされ、最低賃金額で契約したものとみなします。

 

○会社が最低賃金を支払っていない場合

会社が労働者に最低賃金額を下回る額の賃金しか支払っていない場合には、会社は労働者に対してその差額を支払わなくてはなりません。差額を支払わない場合、50万円以下の罰金に処される恐れがあります。

 

○最低賃金計算時に除外する項目

①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)

 ②1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 ③会社で決められた労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃

金など)

 ④会社で決められた労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)

 ⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時

間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)

 ⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

36協定について   2015.08.31

1週40時間、又は、1日8時間(これらを「法定労働時間」と言います)を超えて勤務させることは、法律により禁止されています。従いまして、法定労働時間を超えて勤務させると、労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになっています。

 

法定労働時間を超えて勤務させる場合は、書面による協定、いわゆる36協定(サブロク協定)というものが必要で、これを作成して、労働基準監督署に届け出ないといけません。

36協定を労働基準監督署に届け出ることによって、この罰則が免除されます。

 つまり、本来は労働基準法違反だけど、この協定を届け出れば、労働基準法違違反でなくなるということです。このことについて、労働基準法第36条に規定されていることから、「36協定(サブロク協定)」と呼ばれています。

 

○36協定の限度時間

36協定では、法定労働時間を超えて勤務させることができる時間を決めるのですが、その上限の時間が次のように定められています。

 

1週間→15時間

2週間→27時間

4週間→40時間

1ヶ月→45時間

2ヶ月→81時間

3ヶ月→120時間

1年→360時間

 

なお、これらの限度時間は、法定労働時間を超えて勤務させることができる時間のことで、会社で定めた労働時間を超えて勤務させる時間ではありません。

 

この規定は働き過ぎの防止、健康確保を目的としたものですので、どこの会社でも共通する「法定労働時間」を基準として決められています。

 

○36協定で決めた時間を超えて勤務させてしまった場合

36協定で協定した時間を超えて勤務させると違法になります。また、超えた時間に対する残業手当はきちんと支払わないといけません。もし、超えた時間に対する残業手当を支払わないと、二重で労働基準法違反になってしまいます。

会社は社員に健康診断を受けさせなければならないか   2015.08.20

 職場における健康診断は、有害物質などによる健康被害を早期に発見することや社員の総合的な健康状況を把握するために行うものです。この健康診断は労働安全衛生法上実施しなければなりません。

 

代表的な健康診断は主に2つあります。

 

  1. 雇入時の健康診断

会社は、常時使用する社員を雇ったときは、その社員に対して、医師による健康診断を受けさせなければなりません。

 

  1. 定期的な健康診断

会社は、常時使用する社員(満15歳以下の社員を除く。)に対して、1年以内ごとに1回、医師による健康診断を受けさせなければなりません。

 

 

○健康診断を受ける義務はあるか

社員(一部のパート社員等を除く)は、会社が行なう健康診断を受けなければなりません。ただし、会社が指定した医療機関での健康診断を希望しない場合、その他の医療機関で健康診断を受け、診断を受けるべき項目をきちんとやり、その結果を証明する書面を会社に提出することができれば問題ありません。

 

 

○健康診断結果の通知と記録について

会社は、遅滞なく診断結果を社員に通知し、健康診断個人票を作成して、これを5年間保存しなければなりません。

 

 

○健康診断実施後に会社がやるべきこと

 会社は、健康診断の結果についての医師の意見を聴き、その必要があるときは、その社員の実情を考慮して、就業場所・業務の変更や、労働時間の短縮を行わねばなりません。また、特に必要な場合は医師や保健師による指導を社員に受けさせねばなりません。

 

 

○健康診断結果報告義務

定期的な健康診断を実施した際、常時50人以上の社員を使用する会社は、遅滞なく、定期健康診断結果報告書を管轄の労働基準監督署長に提出しなければなりません。

 

健康診断を受けさせないからといって、直ちに罰則を受けるわけではありません。しかし、会社にとって特に欠けては困る社員が、診断が遅れたことで病気にかかり、長期の離脱を余儀なくされる可能性もゼロではありません。働きやすい職場環境を整える意味でも健康診断は実施する方がよいでしょう。

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