2014年7月
解雇が有効になりやすい場合、なりにくい場合 2014.07.30
日本では、諸外国に比べて解雇が驚くほど厳しく規制されています。労働基準法または労働契約法などに定めのあるように「客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効である」とされており、そのいわば「曖昧な」ハードルを越えるのは簡単ではありません。
では、どのような場合に解雇が有効とされやすいでしょうか。
1、解雇が有効と認められやすい場合
① 業務上の金銭の窃盗や横領
窃盗や横領を客観的証拠により証明できれば金額の大小にかかわらず解雇理由として認められやすいです。日本の裁判所は金銭的な不正行為に厳しい判断を下す傾向にあります。
② 強制わいせつなどの性犯罪を起こした場合
職場内で性犯罪行為を行った場合、職場の秩序を守るために解雇することが認められやすいでしょう。
③ 著しい勤怠不良の場合
無断欠勤が2週間程度続き、注意指導にも従わない場合、解雇の理由として認められる傾向にあります。
④ 配置転換拒否
家族の介護などのやむを得ない理由がないにもかかわらず配置転換命令を拒否することは解雇事由として成立し得ます。転勤や配置転換命令は、それが会社の正当な必要性に基づくものであれば人事権として認められます。
2、解雇が有効とは認められにくい場合
① 能力不足による場合
能力不足は客観的な証明が難しく、さらに裁判所は「一度雇った従業員に対しては、能力がないとしても教育をすべき」という考え方をとる傾向があるため、解雇をするためには複数回指導教育をした実績を積み重ねる必要があります。
② 協調性不足による場合
協調性もやはり曖昧で、客観的に証明することが容易でないため、解雇理由としては成立しにくいでしょう。
解雇の際に重要なのは、「客観的な証拠」と「会社の解雇回避努力」です。日本の解雇権濫用法理がずいぶんと厳しいことを十分注意すべきでしょう。
メンタルヘルス不全に関して労災は適用されるか 2014.07.26
メンタルヘルス不全が労災と認定されるためには、下記の要件をすべて満たしていることが必要となります。
1、認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2、認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
3、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
ここで言う「認定基準」とは、平成23年に厚生労働省より発表されている「心理的負荷による精神障害の認定基準」のことを指します。
メンタルヘルス発病前に極度の長時間労働をしている場合などは、上記2の強い心理的負荷として認められ、さらに1と3の要件も満たすなら、労災と認定されることとなります。
過去に労災と認められた事例としましては
① 「新規事業の担当となった」ことにより、「適応障害」を発病したとして認定された事例
→「新規事業の担当になったこと」と、「恒常的に長時間労働をしていたこと」により心理的負荷が強いと判断されたことが一因
② 「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」ことにより、「うつ病」を発病したとして認定された事例
→「部下に対する上司の言動が、業務範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」とされ、心理的負荷が強いと判断されたことが一因
などがあります。
労災が認定される可能性として、肉体的に心理的負荷がかかる長時間労働、精神的に心理的負荷がかかること等の具体的な基準が設けられています。メンタルヘルス不全になっただけで、ただちに労災と認められるわけではないですが、会社は日頃から従業員の肉体面、精神面に過度な心理的負荷を与えていないかに注意を払う必要があるでしょう。
会社は賞与や退職金を必ず支払わなければならないか 2014.07.24
(会社の支払い義務)
夏・冬のボーナスや退職金は、ある程度慣行化されているという側面もあるものの、法律上は必ず支払わなければならないものではありません。賞与や退職金は、会社が支払う必要がないと判断し、かつ就業規則に具体的な計算式などの支給基準が定めていない限り、支払う必要がないものです。
逆に言うと、次の場合は法律上の支払い義務が発生し得ることになります。
1、就業規則上に支給基準が定めてある場合
2、就業規則等で特段の定めがなくても、長年にわたり実際に賞与や退職金を支払った事実があり、慣行化していた場合
「就業規則上に支給基準が定めてある場合」とは、例えば「賞与の支給時期は○月、査定期間は○月~○月、金額は基本給の○ヶ月分を支給する」などの定めがある場合を指します。多くの中小企業において、賞与には利益配分機能を持たせているので、会社全体の営業利益が芳しくない場合は、約束した基準で賞与支払いを出来ない場合もあります。その可能性に対応するためには、就業規則上で「ただし、会社の経営状態、社会情勢の変動その他の事由により賞与を減額し、または不支給にすることがある」などの例外規定を定めておくことが賢明でしょう。
(対象者の特定の重要性)
賞与や退職金について就業規則等で制定する場合、その支給対象者の定義を明確にしておくことに注意が必要です。例えば「従業員に対しては賞与を支給する」「○年以上勤務した従業員に対して別に定める支給基準に基づき退職金を支給する」という定めがある場合、パート、アルバイトや契約社員も従業員であることに変わりはないため、このままではパート等に対しても当然に賞与や退職金を支払わなければならなくなります。
「そんなつもりではなかった」「パートに退職金がないのは常識だろう」と言っても通用しませんので、就業規則上の規定についてよく確認しておくことをおすすめします。
雇用保険に加入しなければならない人と給付に関して 2014.07.18
雇い入れ時65歳未満の従業員で、以下2つの条件を満たす人に関しては雇用保険に加入させなければなりません。
1、週20時間以上の労働時間があること
2、31日以上の雇用契約の見込みがあること
役員は雇用保険にいれるべきか
原則として、雇用保険は労働者に対する保険ですので、労働者でない人は加入できない仕組みとなっています。しかし、役員の中には、肩書きは役員だが通常の労働者と同じように賃金をもらっていて、他の従業員と同じように会社から指揮命令を受けて働いている人がいます。このような人を「使用人兼務役員」と呼びます。
使用人兼務役員の要件の一つとして「役員報酬以上の金額を給与として貰っていること」があります。
このような場合、「使用人兼務役員実態証明書」を提出し、雇用保険に加入することとなります。
給付の種類
雇用保険に加入することにより、様々な給付を受けることができます。以下、いくつかご紹介します。
① 求職者給付 →労働者が失業した場合(失業手当等)
② 雇用継続給付 →労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合(育児休業給付等)
③ 教育訓練給付 →労働者が職業訓練に関する教育訓練を受けた場合(教育訓練給付金)
④ 就職促進給付 →求職活動を容易にする等その就職を促進(再就職手当等)
雇用保険に加入した場合、毎月、従業員から徴収する雇用保険料は、給与額×0.005で計算した額です。例えば30万円の給与額の人ですと、1500円です。
労働者が失業した場合に貰える失業手当や、出産した際に貰える育児休業給付金等を考えますと、従業員はもちろんのこと、会社側にとっても、従業員が安心して働けるような環境を整えることができるため、双方にとって雇用保険に加入するメリットは大きいと言えるでしょう。
労働時間に関する原則と例外 2014.07.16
労働基準法では、労働時間について以下のように原則を定めています。
・1日8時間まで
・1週44時間まで
ただし、この原則を全ての会社に適用すると、業務そのものが円滑に進まないケースが出てくるため、いくつか例外が設けられています。
例外1:週44時間の業種
常時労働者数10人未満の商業・小売サービス業・保健衛生業などについては、週44時間まで認められます。
これらの業種については、手待ち時間が多く、少ない人員で店番などをする必要があることから、緩和措置そして設けられています。
例外2:変形労働時間制
変形労働時間制は、1日あるいは1週で見ると法定労働時間を超えていても、ある一定期間で「平均すると」法定労働時間を超えないならばよしとする例外規定です。
月の上旬、下旬などを比較して繁閑の差が大きい場合に導入により効果が見込まれます。
一定期間は「1ヶ月」「1年」などで区切られ、それぞれ就業規則での明文化または労使協定の締結が必要です。
例外3:みなし労働時間制
営業職などで1日中外出しており、労働時間を正確に算定することができない場合、「とにかく一定時間労働したとみなす」という例外です。
ただし、この制度はあくまで「会社が労働者の労働時間を算定するのが難しい」ことを条件に認められるものですから、携帯電話その他のモバイル機器で管理を用意にできる現代では中々認められないようになりました。安易に「営業職はみんなみなし労働時間だ」と考えないようにご注意ください。
例外4:専門業務型裁量労働時間制
デザイナーや法律の専門家など、労働時間で労働の価値を測ることに馴染まない一定の職種について、あらかじめ決めた労働時間働いたとみなす例外です。
対象業種が決められているうえ、労使協定の締結が必要です。
これら労働時間に関する例外規定を活用しながら、適切な労働時間管理を進めて下さい。
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