労務コラム

就業規則を変更することで給与を下げることができるか   2014.11.02

不利益変更の禁止

就業規則の変更は時代や会社の状況に合わせて適宜行うべきですが、その変更が給与の引き下げである場合は、簡単ではありません。労働契約法では次のように定められています。

 

第9条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

 

ベースとなる基本給を減額したり、手当を廃止したりすることはこの「不利益な変更」にあたりますので、労働者との合意を原則として必要とします。

 

変更の手順

1、説明会の開催

給与を下げたい場合、まず社員全員を集めて給与減額について経緯や必要性を説明してください。次に「個別に面談」して同意文書にサインをしてもらいましょう。

この時、労働者代表にだけサインしてもらえば全員の同意が得られたという誤解が多いところですが、誤りです。労働者代表は労働基準法の手続き上選出されているにすぎないため、個別の社員との同意とは別モノです。

 

2、同意が得られない場合

同意が得られそうにない場合、無理に同意文書を書かせる必要はありません。高圧的に同意を迫ると、あとで会社側に不利な証拠となります。同意が得られない場合は、給与の引き下げが合理的であるという理由を集めましょう。

例えばこ裁判などで争うことになったとき、

・労働者が受ける不利益の程度

・労働条件の変更の必要性

・変更後の就業規則の内容の相当性

・労働組合等との交渉の状況

などを総合的に判断して合理的な給与引き下げであれば、変更は有効となります。

 

いずれにせよ給与を下げることは高いハードルであることを心得て、きちんとその理由を社員に説明し、粘り強く同意を得るようにしてください。

会社合併時の労働条件に関して   2014.11.01

会社の合併が行われた場合、別々の会社で働いていた従業員の労働条件をどう調整するかが問題となります。

 

そもそも合併とは…

2つ以上の会社が合併契約により1つの会社になることを言います。合併には①新設合併と②吸収合併の2種類あり、新設合併とは、合併対象となる全部の会社が解散して新たに会社を設立することを言い、吸収合併とは、ある1社(以下:存続会社)が合併後も存続し、そこに解散した他の会社(以下:消滅会社)が吸収されることを言います。

 

消滅会社が持っていた権利や負っていた義務は、新設会社又は存続会社に全面的に引き継がれます。この中には労働関係も含まれるため、消滅会社で働いていた従業員の労働条件も引き継がれることになります。この場合、存続会社の従業員とは労働条件が異なっているため、統一させる必要があります。そこで、統一方法として3つほどご紹介します。

 

1、全て高いほうの労働条件にする

2、全て低いほうの労働条件にする

3、内容によって高いほうも低いほうも採用するが、全体的には従業員の不利益にならない労働条件にする

 

1は、会社にとって負担が大きいため現実的でなく、2は社員の不利益が大きいため労使トラブルに発展する可能性が高いです。そのため、選ぶなら3と言うことになります。

ただ、低いほうの労働条件も採用するため、不利益に変更される箇所もでてきます。この場合、「不利益変更をする合理性」が認められなければなりません。

例えば、退職金の金額を少なくしたとしたら、代わりに休日を増やしたりする等、全体的には社員の不利益にならないように策を講じているかが判断材料となります。

 

合併後に労働条件を調整する場合、従業員にとってある程度の不利益な変更になることは避けられないのではないかと思います。そのような場合、代わりに有益な措置を設ける等、誠意を持った対応をしていくことが望ましいでしょう。

解雇が無効になった場合の金銭支払いについて   2014.10.22

会社が従業員を解雇したあとで、辞めさせられた従業員が「解雇は納得がいかない」と主張し、裁判所等に訴え出るケースがあります。

その場合、解雇が有効か無効かを争う事になりますが、裁判で負けて解雇が無効になってしまった場合、会社は思いもよらない金銭を支払うことになってしまいます。どのような金銭を支払う必要が出てくるのでしょうか。 

 

1、係争期間中の給与

解雇無効になった場合、争っている期間中の給与を支払わなければなりません。これは、「雇用関係がまだ続いている」と判断されるためです。この給与には基本給のほか、住宅手当等の諸手当も含まれます。

ただし、必ずしも給与の全額を支払う必要はありません。この期間については「事業主の都合で休んでいる休業期間」とみなされるため、最低でも平均賃金の6割以上を支払えば良いとされています(就業規則で全額それ以上の賃金を払うと規定されている場合は、就業規則で定めてある金額を支払う必要があります)。

いずれにせよ「辞めたはずの社員」の給与を支払うことになることには変わりがありません。

 

2、係争期間中の社会保険料

また、社会保険料や労働保険料の負担も生じてきます。係争期間が長引いた場合、社会保険料などにかかる延滞金も余分に負担する可能性が出ます。

 

3、訴訟にかかる費用

労働問題が裁判になってしまった場合、弁護士報酬などの裁判費用もかかってきます。また、裁判が長引くほど、通常業務に支障を来す「時間的ロスというコスト」も見過ごせません。

 

そもそも日本では解雇に対するハードルはかなり高いものです。従業員に辞めてもらいたい場合でも、すぐに解雇と考えるのではなく、まずは自主退職を進めてみる等、より慎重に進めてください。

 

 

 

割増賃金の計算の仕方   2014.10.22

割増賃金の原則:

従業員に残業をさせた場合や、休日に働かせた場合には、会社は通常の賃金を割増して支払わなければなりません。割増して支払うべき賃金は、残業等をした労働者の時給単価に割増率を掛けて計算します。この割増率には、3つあります。

 

①    法定時間外労働の場合、25%以上

②    休日労働の場合、35%以上

③    深夜労働(22時~5時)の場合、25%以上

 

会社は、原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません。(この労働時間上限を「法定労働時間」といいます。)例えば、始業9時、終業18時(休憩1時間)で時給1000円の人が19時まで働いた場合、「法定労働時間を1時間超えて」労働をしたことになりますので、その1時間分について①の法定時間外労働に対する割増賃金を支払う必要があります。

前述の例の場合、時給1000円の25%以上増しになりますので、18時から19時までの1時間の労働に対して、1250円以上の時給を支払わなければなりません。

これが「法定休日=原則毎週1日の休日に働かせた場合」には②の割増率になり、労働が深夜(午後10時から午前5時前)に及んだ場合は③の割増率をかけることになります。

 

月給者などに対する割増賃金の計算方法:

月給者・日給者に対しては、時給単価に換算して割増率をかけます。

・日給制の場合…日給額を1日の所定労働時間で割った金額を出します。

・月給制の場合…「基本給+諸手当」を1か月あたりの平均所定労働時間で割った金額を出します。

月給制で、通勤手当や家族手当、住宅手当等を支給している場合には、原則として時給単価の計算に入れる必要はありません。これらは個人的な事情に基づいて支払われ、労働に対して直接的に支払われる手当だと考えられていないためです。ただし、家族手当だとしても、家族数等に関係なく全員同じ金額で支払われている場合には、その金額も時給単価計算に含めなければなりません。

 

割増賃金の計算の間違いは、のちに大きな賃金トラブルに発展することがあります。正しい計算方法であるかよく注意してください。

 

 

欠勤日の有給振替について   2014.10.15

従業員が欠勤した後に、「欠勤日を年次有給休暇として振り替えてください」と言ってきた場合、会社は応じる義務はあるのでしょうか。

 

・応じる義務は無い

年次有給休暇は、従業員から事前に有給取得の請求された場合は、会社はその請求を拒否することはできません。しかし、欠勤後にその欠勤日を有給扱いとして振替える義務はありません。法律上にもそのような義務規定はなく、欠勤分の賃金を給与から引いてもなんら問題ありません。

 

ただ、有給振替の義務がないからといって、振替してはならないわけではありません。従業員から申請があった場合、欠勤した理由によっては、有給振替を認めてあげても良いと思います。このような場合、就業規則上に、以下の規定を設けておくことをお勧めします。

 

第○○条(年次有給休暇の届出)

1 年次有給休暇を請求しようとする者は、前日までに所属長に届出なければならない。ただし、事業の正常な運営を妨げるときは、他の時季に変更することがある。

 

2 病気その他やむを得ない事情により欠勤した場合で、本人から速やかに申出があり、会社が正当な事由による欠勤と認めた場合は、当該欠勤日を年次有給休暇に振り替えることができる。この場合、会社は病気等により欠勤した者から医師の診断証明書または医療機関で受け取ったレシート等の提出を求めることができる。

 

従業員からすれば、自分の有給取得日数が残っていた場合、それを使用して欠勤による給与の減額を防ぎたいのが心情だと思います。そのような場合、申し出を頭ごなしに拒否するのではなく、事情によっては認めてあげることで、従業員の不平・不満が起きにくい会社作りをしていきましょう。

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