労務コラム

転勤命令を拒否する従業員を解雇できるか   2014.06.03

転居など生活環境の変化を伴う転勤の場合、従業員が嫌がることもあるでしょう。ただし、会社には広く人事について命令をする権限があるものとされていますので、原則として転勤を命令することは有効です。ただし、転勤命令に関しては以下の点について注意をする必要があります。

 

1、就業規則に「転勤の可能性があること」について書かれてあるか

労働契約法第7条では「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と定めています。

つまり、合理的な内容であれば、就業規則に書かれてあることで転勤命令に根拠があることになります。

 

2、転勤する従業員との個別の雇用契約に「転勤なし」という特約が結ばれていないか

転勤を命ずる従業員について、個別の契約で「転勤はしない」「勤務地を限定する」などの約束がなされていないかを改めて確認する必要があるでしょう。

 

3、異動をするのに積極的な理由があるか

転勤の理由についてちゃんとした理由があるかについても注意が必要です。「ちゃんとした理由」とは、例えば「人材の再活用のため(ある地域でダメな社員を、別の地域でなら活躍できるかも、という場合)」「新規開拓のため」「教育指導のため」などの説明がつくかを確認しましょう。

ちなみにこの「積極的な理由」とは、必ずしも「栄転のため」などのプラスの理由である必要はありません。

 

転勤命令でトラブルになりそうな場合は、事前に以上のことについて気を付けてください。

 

十分な引継ぎをしない社員には退職金を支給しなくても良いか   2014.05.30

【引き継ぎ不足を理由とした退職金不支給は難しい】

退職金制度がある会社において退職金を支払わないためには、まず退職金規定に「○○という場合には不支給にするとの明示」があることが前提となります。そのうえで、退職金を不支給とする場合には、「会社に重大な不利益を及ぼす行為があった」と認められなければなりません。今回のように「十分な引継ぎをしなかった」ことは、会社に重大な不利益を及ぼす行為とまでは認められない為、不支給は無効となると思われます。

 

【減額は可能だが、その程度には制限がある】

退職金の減額は規定として定めておけば可能です。しかし、十分な引継ぎをしたかどうかは会社と社員で解釈が異なるため、判断が難しく、減額できたとしても10%程度までしか認められないでしょう。

 

【引き継ぎ期間】

期間の定めのない契約は、民法上原則として退職を申し出てから14日以上経過すれば退職が成立します。ということは、「退職申し出から14日後に退職されてしまうこと」を想定して、14日で引継ぎが完了するような引き継ぎマニュアルを整備しておく必要があるでしょう。

 

【退職前に有給休暇を消化したいと言われたら拒否は難しい】

一般常識的には1ヶ月から数か月の引き継ぎ期間を設けて引き継ぐべきでしょうが、感情的な対立などにより退職する場合にはうまく引継ぎができない場合も出てきます。例えば14日間の間に有給を取得したいと申し出があれば、会社側が拒否することは難しいでしょう。退職日まで無断欠勤した場合は、規定の定めがあれば退職金の減額を行うことが可能な場合もありあますが、引継ぎは行ってもらえません。

特定の社員にしか行えない作業が多い場合、引継ぎの量も多くなり、引継ぎが行えなかった場合の影響も大きくなります。代替要員でも作業が滞らないような業務体系を作っておくことが大切です。

 

 

 

 

採用時に健康状態や通院歴を尋ねてもよいか   2014.05.29

採用を労働力の提供を受ける以上、応募者の健康状態は会社側にとって重大な関心ごとです。

健康状態や通院歴を尋ねることはプライバシーの観点から気が引けることもあります。

しかし、そもそも会社は「健康に働けること」を前提にして雇い入れ時の賃金を設定しているはずですから、本来は会社が「健康な人を雇う」という条件を付することには何ら問題ないはずです。

 

例えば、日本との寒暖差が激しい海外での勤務が想定される場合には、それなりの体力と健康状態が求められるでしょうし、車を運転する業務であれば、発作を発症する病気を持っている場合は勤務にふさわしいとは言えないでしょう。

 

つまり、自社で求める働き方にふさわしい健康状態であるか否かは選考の際に確認しても原則としては問題になりません。

 

ただし、メンタル面での病歴については慎重な聞き方をする必要があります。健康診断結果だけではメンタル面の不調は必ずしもわかりませんので、「過去○年間に通院したことがありますか?ある場合は疾病名を記入してください」など補助的な確認書類の提出を求めて、精神疾患も含めた過去の病歴を確認してはいかがでしょうか。

 

ちなみに、職業安定法第5条4では、「社員を募集するにあたって、業務の目的の達成に必要な範囲内で個人情報を収集することができる」と定めてあり、健康状態も必要な情報一部と解されます。

また、個人情報保護法は、収集した個人情報を「どのように管理するか」を制限する法律ですので、情報を収集する行為に対する制約をつけるものではありません。

 

就職差別にならないように気を付けつつ、会社が求める健康状態に適う人材採用をしましょう。

 

音信不通の従業員への対処の仕方   2014.05.21

従業員の無断欠勤状態が続いた場合、会社として業務上はもちろん、給与や社会保険資格などの面でも取扱いに困ることになります。まず無断欠勤は許されないことをしっかりと教育すべきですが、無断欠勤者への対応として会社は以下の点を注意しましょう。

 

1、就業規則に無断欠勤に関する条文を規定すること

前提として、「無断欠勤が14日以上続いた時は、退職の意思があるものとして自然退職の扱いとする」などの文言を就業規則に定めておくと、当該日が経過したときにその規定に則って手続きをすすめることができます。

 

2、退職の意思確認をすること

従業員本人に、就業意思があるかの確認をしましょう。メールや電話、あるいは自宅訪問等、連絡がとれる可能性のある手段で行い、それを記録として残しておきます。

文書連絡であれば、「連絡が欲しい。このまま連絡がとれないと、自然退職として取扱いせざるをえない」等の内容にして、会社側が連絡を取ろうと試みた形跡を残しておくことが肝心です。それでも連絡がとれないようならば、事前に定めたルール(就業規則等)に則り、日数が経過したら自然退職として処理します。

ちなみに無断欠勤に対して「解雇」という取扱いをするのはできれば避けたいところです。解雇となると労働契約法などの規定による「解雇権濫用法理:合理的かつ社会通念上の相当性がない解雇は無効」に照らし合わせて妥当か否かを判断されることになり、万が一退職をめぐってトラブルになった場合、解雇の高いハードルが会社に不利に働く可能性があります。

 

3、給与の払い方

給与を本人の口座に振り込んでいるならば、給与支払日には口座に振り込みます。また、直接手渡しで行っている場合には、「○月○日に給与を支給するので、会社までとりにきてください」という内容の文書を送ると良いです。こちらで、会社は残りの給与を支払う意思があるのだと伝えることができます。

 

退職に関する取扱いはしばしばトラブルにつながりますので、慎重に行ってください。

 

 

 

 

 

社員研修時間は、労働時間と言えるか   2014.05.21

社員研修時間については「実際の業務をしていないから労働時間でない」と当然に言えるものではありません。

 

ポイントは「参加が強制かどうか」

社員研修時間が労働時間かそうでないかを判断する上では、その研修が「参加強制であるか否か」が大きなポイントになります。

社員研修が、皆が必ず参加しなければならない強制参加の研修であれば、それは原則として労働時間とみなされるでしょう。一方で参加希望者だけを募る自由参加の研修であれば、労働時間とならないでしょう。

 

ただし、「自由参加」としておきながら、皆が参加しなければならない雰囲気を会社側が作っていたり、参加しないことで給与査定が悪くなったりする等、実質的に参加を強制されている状況であれば、その研修時間は労働時間としてみなされます。

 

研修時間中の給与支払いについて

強制参加の場合、研修時間=労働時間ですので、当然に給与を支払う必要があります。一方で参加を強制されない研修については、原則として給与を支払う必要はありません。

 

3、研修時間の考え方

社員研修が強制参加の場合、その労働時間は、「会社に拘束されている時間」が基準となります。例えば、皆で集合してから研修場所へ向かう場合は、集合時刻から労働時間となる可能性がありますが、一方参加者が各々で現地へ集合する場合には、研修開始時刻が始業時間となります。また当然ながら、通常の労働時間と同じく、1日8時間を超えた場合は残業代がつきます。

 

 

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