労務コラム

プライベートで警察に逮捕された社員にはどう対処すればよいか   2013.12.04

プライベートな時間中に警察に逮捕されるなどの問題行動を起こした場合、会社はその対応に注意が必要です。原則として、仕事とは無関係の私的なトラブルでは懲戒処分はできないと考えられています。

 

例えば、

  1. 電車内で痴漢が発覚し現行犯逮捕された。
  2. 酔っぱらってケンカをして暴行・傷害事件で訴えられた。
  3. 窃盗などで逮捕された。

 

といったことが起こった場合、その私生活上のトラブルがどの程度会社に不利益を与えたかを検討する必要があります。

当該犯罪行為が

 

・業務に悪影響を及ぼす場合

・会社の信用を著しく落とす場合

 

であれば、解雇を含めた懲戒処分をすることも可能でしょう。ただし、それが客観的に見て軽微な犯罪で、更生の意思も見られ、再犯性が低いような場合であれば、解雇権濫用と見なされることもあります。

刑事事件を起こした=解雇とは限らないことにご注意ください。

 

私生活上の犯罪行為に関する解雇を巡って争われた過去の判例では、例えば、バスやタクシーの運転手がプライベートで飲酒運転事故を起こした場合、車を運転するという業務から鑑みて、飲酒運転は厳罰が求められるべきとのことから解雇が有効とされたケースがあります。社会的に求められる職業姿勢に照らし合わせて当該犯罪行為がどういう意味を持つかという点を考えなければなりません。

割増賃金から控除できる手当とは   2013.12.03

所定時間外労働(いわゆる残業)や、深夜、休日労働に対する割増賃金の基礎となるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる「1時間当たりの賃金額」です。この1時間あたりの賃金とは、基本給だけを指すものではありません。職務手当や役職手当など、各手当を含めて計算します。

 

しかし、以下の7つは労働と直接的な関係が薄く、個人事情に基づいて支給されているため、基礎賃金から除外することが出来ます。

7つは限定的に列挙されたものですので、これ以外の手当を控除して割増単価を低くすることは法律違反となります。

 

①家族手当

扶養家族のある労働者に対し、家族の人数に応じて支給するもの。※扶養家族の有無に関係なく支給するものは除外できません。

②通勤手当

通勤に応じた費用で支給するもの。※通勤費用や距離に関係なく一律支給するものは控除できません。

③別所手当

扶養家族と別居することによる生活費の補助として支給されるもの。※扶養家族の有無に関係なく支給されるものは控除できません。

④子女教育手当

社員の子供の教育費補助として支給されるもの。

⑤住宅手当

住宅に要する費用に定率を乗じたもの。※住宅の形態ごとに一律に定額で支給するものは控除できません。

⑥臨時に支払われる賃金

臨時に支払われる賃金。退職金などが該当します。

1ヶ月を超えるごとに支払われる賃金

1ヶ月を超えて支給される、賞与や精勤手当等が該当します。

 

上記の7つは同じ名称であっても異なった性質で支給された場合には基礎賃金から控除することは出来ませんので、注意が必要です。


なお、就業規則並びに雇用契約書などで、役職手当の意味合いを「残業代の定額支給」と定義付けている場合など、手当そのものが割増賃金であれば当然に割増賃金の計算基礎に含まないことになりますが、定義を適法にしておく必要があります。


着替えの時間は労働時間か   2013.11.28

始業前、会社の制服に着替える時間、または仕事が終わって私服に着替える時間は労働時間にあたるのでしょうか。

 

例えば、始業時刻が9時であれば、早めに出社して制服に着替えるというケースは珍しくありませんが、その着替え時間について労働時間と見なされれば、時給相当分の支払いをしなければなりません。

 

裁判例上、着替え等準備時間については以下のような解釈がなされています。

 

【「三菱重工長崎造船所事件」(最高裁平成12.3.9判決)】

この裁判は、作業服への着替え時間が労働時間に該当するかどうかを争ったものですが、これによると、

労働時間に該当するかは「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否か」により客観的に定まるもので、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないとしています。

判例によると「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する」と、あります。

この考え方によれば、

 

①  着替えることが労働の準備にあたる行為で、

②  職場で着替えなければならない状況で、

③  使用者から義務付けられている場合(従わない場合のペナルティがある場合も含む)

 

は、労働時間ということになり、その時間の賃金を請求できることになります。

 

【周辺的行為については当事者間で定めるという考え方もある】

一方で、準備や片づけ、着脱衣などの行為を直接的労働とは分けて考え、当事者間で労働時間であるか否かを取決めできるという解釈もありますが、裁判の場では前述したように「客観的な状況がどうであるか」を優先される可能性が高いといえます。

着脱衣や事前掃除などの行為については、このように労働時間性を主張される可能性があることを意識したうえで、指揮命令を行うことをお勧めします。

 

 

 

社員が行方不明になった場合の対処法   2013.11.27

社員が行方不明になった場合には、当然まずは安否確認、状況の把握に努めてください。

本人への連絡は電話、メール、書面などの方法で手を尽くし、加えて親類などに対しても現状の伝達をするべきでしょう。

 

連絡の手順

電話やメールで一向に連絡が取れないのであれば、特定記録郵便など受け取りを証明できる方法で書面連絡を試みましょう。書面内容としては

 

・  連絡が取れなくて苦慮している旨

・  担当者宛に連絡を求める旨

・  受け取りから相当程度余裕を持った期限を設定して、期限内に連絡がない場合は、退職取り扱いとなる旨

 

を盛り込むとよいでしょう。

本人への連絡が付かない場合は、念のため同様の連絡を親類に対して行うと尚よいでしょう。

 

手を尽くしても連絡が取れない場合

この場合は、就業規則の定めに従い退職処理をすることもやむを得ません。

このときには就業規則上の規定が重要になります。2週間以上の無断欠勤に対して「解雇」取り扱いとする旨規定する事もできますが、実際に解雇となると「客観的合理性」が求められるため、後で本人が出社してきたときに合理性で争うことになる可能性が残ります。解雇に対しては法的制限が多く有るため、できれば「出勤の意思がないものとみなして自己都合で退職取り扱いとする」方向で規定整備をした方がよいでしょう。

行方不明者に対応するためには、具体的に就業規則に以下のような規定を定めます。

 

例:社員が次の事項に該当した時は自然退職とする

原因の如何を問わず、社員が会社に届出た連絡先にて会社との連絡不能となった状態(行方不明)が2週間以上経過したとき

 

ただし、長年真面目に勤務してきた社員と、入社間もない社員とでは、同じ行方不明でも意味が違ってきます。事案により個別に検討しましょう。

給与の引き下げ方   2013.11.20

いったん決定した給与を引き下げることは簡単ではありません。

労働条件の一方的な不利益変更はできないため、社員の同意を得ることが求められます。また、実施する場合には、引き下げの必要性につき、合理的な理由を説明しなければなりません。

 

合理的な理由とは

給与引き下げも止む無しと言うためには、単に業績不振というだけでは十分でなく、あらゆる手を尽くして給与引き下げを避けようと努力をしたがそれでも避けられなかったと客観的数値で説明できなければならないと考えましょう。

具体的には、給与引き下げの前に

 

・役員報酬のカット

・残業の抑制

・賞与の減額、カット

・人件費以外の経費削減

 

のような対策を行った上で、最終手段として給与引き下げを行うと、その合理性を説明しやすく、従業員の同意も得やすくなります。

 

同意はどのように取り付けるか

 同意は、原則として全員の個人同意が必要となります。同意書を作成する場合には、①手当ごとの細かい変更金額や、②変更日を記載するようにしましょう。

また、本人の氏名欄をパソコンで印字すると、いかにも会社側が同意を前提で用意したように見えるため、できれば本人の自署をしてもらいましょう。

※自社に労働組合がある場合には組合との団体交渉を経て労働協約を締結すれば、個人同意は必要ありません。

 

手当のカットはしやすい

基本給を下げることは難しいですが、手当を支給基準に従ってカットすることは合法です。例えば重要な職務を担当する社員に「特殊勤務手当」を支給していた場合、重要職務がなくなった場合は、当然に手当をカットすることが出来ます。経済情勢の変動に柔軟に対応できるよう、手当をはじめとした給与制度の見直しを検討されるのもよいかもしれません。

 

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