労務コラム

職種によって定年に差をつけても良いか?   2013.05.30

職種が異なる場合、同じ会社に所属する社員の間で、定年に差をつけることに合理的な理由があれば、その範囲においてはただちに違法とはなりません。

社員に必要とされる「能力」や「適性」は、職種によって異なってきます。加齢による肉体の衰え等が職務の遂行能力に大きく影響する職種と、その影響が小さい職種では、その労働条件を変える合理的必要性もあるでしょう。

 

また労働条件は、労働契約を結ぶときに「個人ごと」「職種ごと」に応じて決定されるものですから、定年年齢だけを全社員そろえる必要はありません。

 

ただし、名目上は職種が異なっていたとしても、実態が同様であれば定年に差をつけてはいけません。労働基準法第3条で均等待遇の原則が規定されているからです。

 

定年差の合理性の例:

(例1)

事務職は70歳、現場での製造職は65歳の定年を定めていた場合。製造業は高齢になると肉体的に厳しくなること、現場製造職員への安全配慮から定めたものであれば、その範囲で定年差には合理性があるでしょう。

(例2)

女性は60歳、男性は65歳の定年を定めた場合。合理的な理由がないので無効です。

 

ただし会社は、定年年齢に差異を設けるときは、必要最小限にとどめる配慮をしなければなりません。老齢年金の支給開始時期が遅くなりつつある現在は、社員の所得保障について従来以上に気を回す必要があります。例えば、ほかの社員に比べ早い定年を設ける職種に関しては、当該職種の定年後、より高い定年年齢の職種に配転するなどの配慮をすることも考えられます。

会社からの一方的な賃金切り下げは認められるか?   2013.05.26

労働契約は「労働者が労務を提供し、使用者が賃金を支払う」という約束事を指します。労働者は一定のお金が支払われることが条件で働いているので、会社からの一方的な賃金減額を認めてしまうと、労働者側からすれば「契約されていない賃金で働く」状態になってしまい、不合理です。つまり、特別な事情がなければ一方的な賃金減額は認められません。

ではどのような場合がその「特別な事情」と認められるのでしょうか。

 

特別な事情には以下のようなものがあります。

①    懲戒処分としての減額

ペナルティーを与える目的で行う場合

②    職能資格引き下げによる賃金減少

例えば役職者が降格し、その役職に対応する役職給が減額する場合など

③    配転を行った結果としての賃金減少

営業職から事務職に配転し、営業手当がつかなくなる場合など

 

以上のような場合が特別な事情に当たります。

しかし、たとえどのような事情があったとしても、給料を下げるには就業規則などによる事前の取り決めが必要とされていますので注意が必要です。

 

「会社の業績低下による賃金引き下げ」はこの特別な事情に含まれるのでしょうか。

 

会社が存続するために賃金引き下げがやむをえない場合、会社は社員に賃金引き下げの必要性を説明して同意を得る努力をしなければなりません。会社としては、まずは賃金減額をしなくてもすむような措置を講じることが必要ですが、経営状態によっては難しい場合もあるでしょう。やむをえない時は、社員に賃金カットの必要性を理解してもらうことが大切です。社員も会社が倒産して職を失うよりは、賃金が下がっても雇用を維持してもらう方が良いと考えてくれるかもしれません。

 

なお、引き下げに同意を得られた場合は、新たに引き下げた賃金での雇用契約締結をする等して、合意があった旨記録しておくとよいでしょう。

 

 

 

社内不倫を理由に解雇できるか   2013.05.25

社内不倫が判明した場合、会社は当事者に解雇その他ペナルティを与えることが出来るでしょうか。

 

原則:ペナルティを与えるには「根拠」と「実害」が必要

社内不倫に対して会社が何らかのペナルティを与えるには、「就業規則上の根拠」と、「社内不倫による実害の存在」が必要でしょう。

就業規則上の根拠については、「会社の秩序を乱してはならない」等の服務規定が存在していることが多いでしょうから、そこに根拠があるとしてもよいでしょう。

ただし、「実害の存在」については中々容易でありません。

 

例えば、

・社内不倫が家庭に知れ、夫婦間のモメごとが職場に及んだ場合(職場でケンカをする、執拗な電話が職場にかかってくる、怪文書が送られてくるなど)

・同じ職場内の人間関係等に悪影響を与えている(まわりが気を使って、社内の協力体制がめちゃくちゃになる、円滑なシフト組みに影響を与えるなど)場合

・職種上特に倫理観が求められる状況で、その倫理観にそぐわない場合

などの場合は、ある程度実害があると認められます。

一方で、単に不倫がわかったことだけを持って(つまり私生活上の行動があることで)、会社として解雇その他のペナルティを与えることは難しいでしょう。

 

干渉の仕方について:

社内不倫については、その注意の仕方に注意をしなければなりません。

社内の噂やネットの書き込み等のみを鵜呑みにして執拗に問い詰めると、その問い詰める行為がセクハラ・パワハラに該当してしまう可能性も否定できません。

まずは事実確認を公平な立場ですることが必要です。

また、プライバシーにも注意して、事情を聴く際も別室に呼ぶなどの配慮を持つ方が良いと思われます。

外部の労働組合と団体交渉には応じなければならないのか?   2013.05.24

まず、労働組合とはどのような団体かを説明します。

「労働組合」とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合会」と労働組合法で定められています。つまり、労働者の権利保護や働く環境の改善のために団結した集団ということになるでしょう。また、「団体交渉」とは、労働組合が会社と労働条件等について交渉する行為を指します。

通常は「団体交渉申入書」という書面が会社に送られることで団体交渉が始まることになります。

 

交渉拒否ができるか:

団体交渉を求められた場合、使用者は正当な理由なく拒むことができません。団体交渉を特に理由なく拒むことは「不当労働行為」として法律上禁止されているからです。

さらに、労働組合の構成員は自社単一の社員に限るという定めはないので、加入者に自社社員がいれば、外部の労働組合の交渉も応じなければなりません。

では、解雇された元従業員が労働組合に加入し、団体交渉を求めた場合はどうでしょうか。元社員なので「雇用する労働者」とは言えません。

しかし、不当解雇で争っている場合や、未払い賃金等で争いがある場合には、その範囲で「雇用する労働者」とされます。よって元社員であっても、使用者は団体交渉に応じる義務があります。

 

団体交渉を拒否した場合:

団体交渉を拒否すると、労働組合は労働委員会に団交応諾の救済申立が出来ます。この申立を受けた労働委員会は、労働組合が法に適した団体であり、当該会社の労働者がその組合に加入していれば、会社に対して救済命令を出します。

したがって、結局、団体交渉に応じなければならなくなります。

 

団体交渉のすすめかた:

会社側は最初から弱腰にならず、法律違反事実を確認し、改善策を見出す努力が必要です。法律違反については正す努力をしつつも、あまり感情的にならず、論理的に話を進めるように心がけましょう。なかなか交渉がまとまらない場合は、ADR等、第三者の専門家も交えての紛争解決手段を利用するのも良いでしょう。

 

 

休職を繰り返すうつ病社員は退職させられるか?   2013.05.22

私傷病による「休職制度」は法律上の義務ではなく、会社のルールで任意に定めることが出来ます。休職からの復職についても同様に会社独自のルールを適用させることができます。

 

休職させるべきか否か、復帰可能か否かについて、外傷であれば治癒状態が判定しやすいですが、ことに精神疾患の場合は、回復の判断が難しく、再発することが少なくありません。

そして精神疾患、いわゆるうつ病については、近年休職を巡るトラブルが多くなっていますので、特にこれらの反的基準を休職制度上で整える必要があります。

 

例えば、「精神疾患が再発したかどうか」を判断する上で、休職者・または休職者のかかりつけの医師の意見のみを拠り所にした場合、休職者の側の利益に偏った診断書が出てくることも想定できます。こうなると、再発の度に短期間の休職何度も繰り返され、会社は労働力を提供されていないにも関わらず社会保険料その他福利費を負担し続ける事態にもなりかねません。

 

【解決方法】

休職に対するルール作りとしては以下のようなことが考えられます。

①復職の扱いを慎重にする

l  就業規則に、私傷病で休職していたものが復職する場合に下記趣旨の文言を入れると良いでしょう。

l  会社が指定する医師への受診を命ずること

l  復職を本人の申告制でなく、人事部長等の許可制にすること

 

②再休職を前休職期間と通算する

l  復職したものが復職後短期間に同一理由で就職した場合、前回の休職と通算する

l  通算により、残期間を休職の限度とする

このような趣旨の規定があれば、前後の休職期間を通算することが出来ます。

例えば、休職期間満の上限が3ヶ月であった場合、1ヶ月後復職し、再度類似の傷病で休職したものを「病気がなおっていなかったもの」と取扱い、休職期間のカウントを通算することが可能です。

規定がない場合、休職期間が通算されず、いつまでたってもゼロからカウントしなければなりません。

また、「休職満了後になっても休職事由になった私傷病が回復しておらず、従前の職務に復帰できない場合には、自然退職とする」旨を就業規則に定めておけば、解雇でなく休職期間満了による自然退職との取扱いになります。

 

いずれにせよ、休職に係る規定は整えておく必要があるでしょう。

 

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